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2017/08/08

デジタルサイネージのユーザーエクスペリエンス(UX) 〜現状と課題〜

サイネージあれこれ
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Digital Signage x UX

最近、「ユーザーエクスペリエンス(UX)」という言葉を良く耳にするかと思います。しかし、実際は「いまいちUXについて理解できていない」「UIとUXの違いって何?」という方もいるのではないでしょうか?スマフォアプリやWeb業界から浸透してきたこのユーザーエクスペリエンス視点、実はデジタルサイネージにおいても重要な事なのです。

今回は、デジタルサイネージについてユーザーエクスペリエンス(UX)視点で整理します。まずはUXついて説明した後、デジタルサイネージにおけるUXの重要点、それぞれの要素における現状と課題を整理します。

ユーザーエクスペリエンス(UX)とは

UXとは User eXperience(ユーザーエクスペリエンス)の略称です。そのまま訳すとユーザ体験・顧客体験となります。

「ある製品やサービスを利用したり、消費した時に得られる体験の総体。個別の機能や使いやすさのみならず、ユーザが真にやりたいことを楽しく、心地よく実現できるかどうかを重視した概念である。」(IT用語辞典 e-Wordsより)

ここでは「ユーザの体験や満足度を上げること」と単純に覚えてしまってよいでしょう。そのための設計やデザインを UX Design (UXD) とも言います。日本では、Webや(スマフォ)アプリの分野で「分かりやすく」「使いやすい」「楽しい」UIやサービスをUXの視点で設計し改善する動きが近年活発化しています。

さて、ユーザ体験を向上するにはどのような点に気をつければよいでしょうか?

一つの指標として、情報アーキテクチャ論の先駆者であるにPeter Morville氏のUXハニカム構造(下図)が良く引用されます。これは、ユーザが感じる体験価値 (Value) を中心に、必要な6要素が記載されています。これらが満たされて初めて良いUXが提供されることになります。

UXハニカム構造

デジタルサイネージにおけるUXとは

ではデジタルサイネージにおけるUXとはどういう事でしょうか?何を気にすればよいでしょうか?

デジタルサイネージ利用者の体験を向上させることがUXで重要なことになります。「使ってもらえる」「利便性を感じる」「使って良かった」そう感じるサイネージが必要です。これには、単にUI(ユーザインターフェース)が良いだけではUXとしては不十分です。UIがどんなに良くても、サイネージが非常に分かり難いところに設置してあり、ユーザが気付かないようでは意味がありません。このように体験向上のために色々と考えなければなりません。

ここで、デジタルサイネージのUXを考えるにあたり必要な要素を整理してみました。大きく「UI」「筐体デザイン」「環境空間」「ユーザ属性」「時間」「コンテンツ」の6つに分けました。それぞれの要素について大事な事や問題点について列挙します。

UX分類図

UI(ユーザインターフェース)

タッチや音声などでインタラクションできるデジタルサイネージにおいて、UIの出来は非常にUXに影響します。交通やショップ等の情報提供やフロア、経路、観光地等の案内を目的としたサイネージ(デジタルサイネージコンソーシアムではアテンドサイネージと定義しています)では、UI設計は非常に重要な要件になります。UX向上のためにUIで考慮すべき事は非常に多いため、ここではざっと列挙するに留めます。

  • 初見の人でも簡単に操作ができるか
  • タッチの反応速度は速く(150msecを目安にし、不安・不満にならない速さとする)
  • むやみやたらに操作ステップ数を増やさない
  • タッチできるかどうかを分かりやすく表示し、そのタッチルール(マルチタッチの場合はピンチインやピンチアウトなど)は簡単かつ分かりやすいもの、良く使われるものにする
  • ボタン、アイコンやテキストなど適切な大きさにする(小さいと触れ難く気付かない、読み難い、大きすぎると一画面の情報量が減るので適度に)
  • 色は見えやすく、かつ、色覚障害者に配慮した表示にする(できればUIのトーン&マナーもしっかり作りその中で色を決めていく)
  • 何か操作したときはちゃんとシステムが応答していることを表示(フィードバック)する

これらは通常のUI設計の中でも考慮されるべきことで、スマートフォンやWebのUI設計と共通する事も多いです。しかし、サイネージは立位で操作する事が多く、それも初見で操作することも多いため、スマフォアプリと同じ条件下での設計では不十分です。

しっかりとリリース前には実機でユーザーテストをし、ユーザビリティを良くしてUXを向上させましょう。

SIPO「デジタルサイネージをタッチパネル化するメリットデメリット」にもタッチパネルに関する注意点の記載がありますのでぜひ参考にしてみてください。

筐体デザイン

サイネージ筐体のデザインもUXに大きく影響してきます。

LCDディスプレイの低価格化と性能向上に伴い、大きなディスプレイが採用されるようになってきました。画面が大きいと視認性・アピール度も増加します。しかし、画面が大きい=見やすい、とは限りません。例えば、タッチ操作が必要なサイネージにおいては、ディスプレイに近づく必要があります。その際に、タッチした結果表示を確認するのにイチイチ遠ざからないといけないような設計になっているとユーザはストレスを感じます。タッチすることが前提のサイネージでは、タッチしやすい画面の傾き・大きさ・設置位置の高さを考えて筐体デザインすることが重要です。加えて、車椅子でも操作しやすいよう足元に空間が空いていると良いでしょう。

操作性や運用面だけでなくデザイン性についても意識しましょう。

日本に設置されているサイネージは、機能要件を重視してしまっているのか、武骨で無機質なものが多い気がします。そのため、空間全体で見ると設置物として非常に浮いているように感じます。建築物同様にサイネージ筐体も設置場所のデザインポリシーに適した意匠にして、心地よい空間を形成する物になるとUXは更に向上するでしょう。

空間環境

サイネージの設置場所や周辺環境にも考慮する必要があります。

空いているスペースに置いて歩行者側に向けておけば良い、と単純に考えて設置してしまうと誰も見ない、むしろ通路の邪魔になっていただけ、ということがあります。つまり人がどのように動くのか(動線)をしっかり見極めて設置する必要があります。

動線の中で自然にアクセスできるような場所に置くのはもちろんですが、その際にも通路幅を確保して邪魔にならないような場所に置くなど考慮しましょう。また、周辺環境の明るさを確認して見やすい場所に設置しましょう。直射日光下では明るすぎて見難いこともあります。ひさしを付ける、直射日光方向に向けないなど工夫をしましょう。

ユーザ属性

サイネージを使うターゲットユーザの属性にも気にしましょう。

子供やご老人も使う事が想定されるのであれば文字を大きくする(大きくできる機能をUIにもたせる)、画面の高さを低く設定するなど考慮が必要です。車椅子に乗ったユーザへの対応も含みます。

観光地などでは海外からの旅行者向けに多言語対応が必要です。その際に、機械的に日本語を翻訳するのではなく、その言語の表記慣習に従って表示すると分かりやすくなります。例えば、単位系をユーザの国の標準に変換する(例:メートルをインチ表記)、温度表示(摂氏/華氏)など考慮してUXを良くしていきましょう。

時間

ここでいう時間には2つの意味があります。一つはユーザの体験回数や実際に触っている時間です。デジタルサイネージは普段我々が使っているスマートフォンと違って、初めて見る(触れる)ことが大半です。よって、初めての人でも直ぐに使い方や機能が分かる必要があります。見て触れる時間も1、2時間も触れる事はなく良くて数分です。短時間でしっかりと目的を果たせるよう考えられていなければなりません。

もう一つの時間は、「時」(とき)です。歩行者の多い時間とそうでない時によってコンテンツを変える、季節やイベントにフォーカスする、など。デジタルだからこそリアルタイム性との親和性を生かして運用することが大事です。

コンテンツ

広告や販促においてはコンテンツが命です。UXにおいて「見やすい」「分かりやすい」コンテンツであることは必須です。また、デジタルサイネージとしては視認性も重要です。気がついて見てくれてからがサイネージの仕事のはじまりとも言えます。

エンターテイメント性が強いインタラクティブな仕掛け(AR技術をつかったサイネージ等)も「楽しく、新しい体験」をユーザに提供できます。

一方で、広告宣伝を嫌う人もかなり居ます。コンテンツオーナーやロケーションオーナーの沢山広告を出してみてもらいという気持ちはわかりますが、加減を考えないと、ユーザが不満に感じてしまい、悪いUXを提供することになりますので注意しましょう。

サイネージにおける新たなUXと課題

ロボットサイネージ

Pepper

街中でロボットを見かけることも増えてきました。AI(人工知能)を搭載し、自然な音声によって会話ができます。多言語音声認識によって英語や中国語などにも対応しインバウンド対策もばっちりです。目の前のユーザの性別や表情も推定できるため、ユーザにマッチしたコンテンツをリアルタイムで提供することができます。このようにコンシェルジュ的な役目をロボットは果たしてくれます。

非常に有能で高機能なロボットサイネージですが、飽きられて見向きもされていないロボットも残念ながら非常に見かけるようになりました。これはどうしてでしょうか?

原因の一つは、まだまだ対話(コミュニケーション)インターフェースが充分設計されていない事があげられます。音声認識技術は非常に進歩し、自然な発話もかなり認識できるようになりました。またロボットの発話も音声合成技術の進歩で、感情も入った非常に聞きとりやすい音声で話しかけてきます。しかし、人は音声をコマンド的な指示指令だけに使うのではなく、高度なコミュニケーションツールとして普段使っています。

「何でも話しかけてください!」と言われると、何を言えば答えてくれるのか、と躊躇してしまい、なかなか話し難いものです。単に商品説明を聞きたいだけなら、画面の商品イメージをタッチするほうが速く的確です。色々な言い方がある音声インターフェースよりも確実なタッチやボタンを人は選んでしまうのです。

今はまさにロボットとどう接するかもまだ分かっていない模索段階です。言葉は悪いのですが、客寄せパンダ的にロボットを使っても、「使えない」「飽きた」というレッテルをすぐ貼られてしまっているのではないでしょうか。

詳しくは、SIPO記事『ロボットとの対話は難しい? ロボット(AI)×デジタルサイネージの実例と問題点』にも記載してありますので一緒に読んで見てください。

コンテンツ

街中を歩くとかつての看板は電子化されたデジタルサイネージに置き換わり、多くの情報が表示できるようになりました。ポスターなどの静止画から今は動画・アニメーションが非常に多く使われるようになりました。

そのため、かつてはアイキャッチであったコンテンツもディスプレイが氾濫しすぎて、逆に注目しなくなってきているように感じます。街頭においたサイネージにおいて、動画よりもロール式ポスター看板の視認率が高かった、という調査結果をベンダから聞いた事があります。いまやコンテンツをデジタルにしたから、動画にしたから見てくれる、という単純な話しではなくなってきています。

静止画:シンプル、商品名の記憶や感心喚起に良い

動画 :情報量の多さ、利用シーンやサービスの理解や信頼を提供するのに良い

最近は、写真や絵に動きを与える新しい技術(NTT社 “世界で初めて、写真や絵に動きを与える不思議な照明『変幻灯』を開発”)も開発されサイネージに応用されています(大日本印刷とNTT Comが共同開発、写真や絵に動きを与える光投影技術「変幻灯」を活用した次世代POP広告を販売開始, 2017年3月7日プレスリリースより)

静止画、動画、アニメーションそれぞれの良さを考えてコンテンツを作りましょう。

サイネージ体験行動

サイネージ体験行動

(『UX白書』ユーザーエクスペリエンスの期間, hcdvalue より引用)

UXを時間の流れに沿って区分した「ユーザーエクスペリエンスの期間」という概念がUX白書(英語)にて提唱されています。

これをサイネージのUXで考えると、一時的UXがサイネージを体験している時です。コンテンツを見る、タッチして操作している時です。これらの「行動」を起こすのに大事なのは、その前段の予期的UXが影響することです。サイネージにおける予期的UXとは、例えば、「気がつく」「見る」「近づく」などにあたります。

現在のサイネージは、一時的UXに相当する体験中のUX、そして体験後の消費行動に関して重視する傾向があるように思えます。しかし今後はこの予期的UXにあたる「行動させる」部分のUXにも注目していかないと、「使われない」「見てもらえない」サイネージになってしまいかねません。

最近、スマートフォンと連携したサイネージやロケーションサービスも増えてきました。

近くに行くとリアルタイムにスマートフォンにオススメやクーポンなどの情報が通知(プッシュ)されてきます。非常に面白い体験とサービスですが、ここでは予期的UXが考えられていません。アプリを事前に起動しておかないといけないのです。サービス側としては、「こんなに利便性があるのだから事前にアプリぐらい起動してくれるだろう」と思いがちです。果たしてそうでしょうか。

UXの落とし穴

「ユーザ視点で考える=UX視点」とは限りません。UXを考える上では落とし穴がいくつかあります。

分かっている人は知らない人の気持ちは分からない

関係者らが勝手に考えたユーザ像が実際のユーザの行動や考え方と相違していた、なんてことはよくある話しです。関係者にとっては見慣れたサイネージやUIもユーザにとっては初見なのですが、その初見の立場になりきれてない、ということです。

ユーザは何が問題でどうすればいいか分かっていない

ユーザの声通りにすればすべて良くなるとも限りません。ユーザにとってはあくまでも個人の、主観で意見をいいます。鵜呑みにしすぎない事も大切です。

まとめ

マロニエゲート銀座 ハナドケイ

(マロニエゲート銀座2 ハナドケイ photo by Neoma Design)

今回は、UX視点でデジタルサイネージの重要な点や課題を整理しました。

サイネージを導入する側、広告代理店、コンテンツオーナー、ロケーションオーナーなど様々な立場の人が関わってきます。それぞれの視点でどういうサイネージが良いか、視認率が上がるのか、ノウハウや目標があります。一方で、ユーザーエクスペリエンス(UX)はユーザ中心の視点です。ユーザの体験を最大限にするためにどうすべきかを考えなければいけません。

自分たちが開発したサイネージを非関係者にも触ってもらってテストすること、UIの分野では、ユーザビリティテストともいいます、がUXの手法では鉄則です。このテストを充分やらずに世に出ているサイネージが多い気がします。

ユーザは、使い勝手が悪くUXが良くないと、そのサイネージを置いている店や公共機関そのものに対して悪い印象を持ってしまいます。このサイネージはどこの会社ディスプレイでどのベンダが開発したものか、なんて見ていません。また多くのユーザにとっては、サイネージのクレームをどこにいつ言えばいいかもわからないため、ユーザーフィードバック(お客様の声)が得られ難いのもサイネージの欠点の一つです。効果測定をする場合には、必ずユーザの声も聞き、良い所だけでなく悪いところもチェックしておきましょう。

サイネージを単に設置しておけば良い時代ではなくなってきています。屋外デジタルサイネージでは、景観条例に代表されるように周囲環境にも配慮が必要ですが、屋内においても空間デザインや筐体デザインにもこだわったサイネージが今後は注目されるのではないでしょうか。自然と調和するデジタルサイネージ、なんてのも良いかと思います。

UXに100点満点はありません。全ての人を完全に満足させることはできなくても、今回紹介した要点なども参考にして、質の高いUXが得られるサイネージを増やしていきたいですね。

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